モザイクワークでは、採用に関する様々なトピックに関して考えるイベントを定期的に開催しています。3月15日は、外国人採用(グローバル採用)をテーマとしたイベントを開催。労働人口の減少に伴い、グローバル人材の採用が必須と叫ばれる中、なかなか進んでいないのが現状です。なぜ外国人採用をするのか、なぜしないのか。また、日本語を必須とすべきか、会社に馴染むのか、など、外国人採用に詳しい専門家たちが語りました。
参加者は30名ほどで、会場からも意見が飛び出すなど、活気あふれるイベントでした。2部構成による前編では、各プレゼンテーションの様子をレポートします。
プレゼンター&トピック
- ビザの取得数は増えていても、実際は中小企業の採用が75%を占める
フォースバレー・コンシェルジュ株式会社 取締役 橋本和宏さん - 「英語しか話せない」人材はブルーオーシャン。リスクも考え、必要性を再確認すべき
一般社団法人日本国際化推進協会(JAPI)事務局長 田村一也さん - 日本全体で、世界に通じる人材を育成しよう
立命館アジア太平洋大学(APU)学長室東京分室課長 伊藤健志さん
外国人による学生ビザ、就労ビザの取得数は増えている
最初のプレゼンターは、フォースバレー・コンシェルジュ株式会社 取締役の橋本和宏さん。フォースバレー・コンシェルジュは日本の企業や大学、それから中央省庁や地方自治体と共に海外からグローバル人材を獲得して来ることを主な事業としています。2007年の創業からこれまでの10年間で40か国ほどに事業展開し、20万人強のデータベースを保持。国内のクライアントは500社ほどと取引をして来ています。
ここで橋本さんは「日本は、外国人を採用しやすい国だと思いますか?」と会場に問いかけます。挙手をしてもらったところ、「採用しやすい」と思う人はゼロで、難しいと思う人ばかり。ところが橋本氏は「制度的には、世界の先進国の中で日本ほど外国人を採用しやすい国はない」と言い切ります。理由は、就労ビザを取りやすいこと。また、外国人留学生のビザ取得数も増えています。就労ビザ許可数も、同様に増えているのです。
実態は、日本語学校や専門学校生、資格外活動などが多数
ところが、2017年の調査(IMD WORLD TALENT RANKING 2017)によると、調査したアジア11カ国内のうち「働きたい国」のランキングで最下位という結果に。また。世界65カ国の中では51位という結果でした。
働きたくない理由に、次のようなものがあるといいます。
- 長時間労働
- わかりづらい評価基準
- 言葉の壁
- 低賃金
留学生が増えているといっても、日本語学校や専門学校が中心で大学院生はほぼ横ばい。就労ビザはアルバイトなどの資格外活動や、技能実習などが多く、出稼ぎを目的として日本へ来ている留学生も多いのが実情です。
採用しているのは中小企業
では、どんな会社が外国人を採用しているのでしょうか。外国人採用の活動をしているのは、国内の約20万事業者のうち、社員数が100人に満たない企業が75%を占めます。大企業より、中小企業で増えているということになります。
フォースバレー・コンシェルジュでは、クライアント企業にエリートコースの新設を提案。小さな単位のグループにエリート枠を作り、局所的な英語公用語の採用を推奨してきました。成功事例を重ねながら進めようと試みてきたものの、コンタクトしてきた1000社以上のうち、実際にエントリーコースのような制度を設け英語人材を獲得してきた会社は1%程度でした。
橋本さんは、「日本の賞味期限はあと何年あるのか?」と、この事業を最前線で創り上げて来たからこその非常に強い危機感を抱いています。昔は日本を目指したアジアのエリート層は、今やアジアの中ではシンガポールや香港に集まり、日本は二の次というのが現実です。日本はもはや、待っていても選ばれる国ではありません。特に海外の高度人材にとって、日本は働くには魅力のない国になりつつあるという現状を正しく認識し、外国人にとっても働きやすい環境、企業カルチャーを作らなくてはならないでしょう。グローバル採用を成功させるためには、日本全体が覚悟を決めて進める必要があると訴えました。
日本語が話せなくてもいいなら、そこにブルーオーシャンがある
2人目のプレゼンターは、一般社団法人日本国際化推進協会(JAPI)の事務局長を務める田村一也さん。2018年より、独立行政法人経済産業研究所の「外国人の就労・移住に関する研究」のプロジェクトメンバーとなっています。
JAPIとは、国内外の日本語学習者と日本企業や教育機関をつなぐシステムづくりを行っている組織。外国人留学生のフォローアップ支援や、リサーチ&コンサルティング、コミュニティ創成などを事業としています。
外国人の採用には中小企業が増えているといい、その理由に「中小企業は大企業と比較して人材採用がしにくい」点を挙げています。外国人留学生には中小企業は不人気と思われがちですが、実は働きたいと思っている方は多いそうです。また、東京よりも地方のほうが深刻な人手不足に悩まされているため、地方自治体では企業に対して外国人の採用を積極的に支援しています。
田村さんは、参加者の方に質問をします。「英語しか話せなくても採用するという企業は?」挙手したのは4社。日本語を話せる外国人は取り合いになるため「英語しか話せなくてもいい」という条件で探せば優秀な人材はたくさんいます。いわばブルーオーシャンなのです。
ネガティブな面とも向き合い、必要性を再確認する
では、留学生の就職率が高まらない理由は何でしょうか? それは次の5つだと言います。
- 就活システム(新卒一括採用、求人ナビサイト中心の採用活動など)
- 外国人採用企業が少ない
- 日本語のエントリーシート
- 日本語のSPI
- 忖度面接(「いつ帰国しますか?」と聞かれ「(本音は数年後に帰国するつもりであっても)帰国予定はなく、ずっと日本にいます」と回答しなければ不採用になること)
また、採用担当や会社のトップが「そもそも外国人採用は必要なのか?」と考えているケースもあります。失敗事例に次のようなものがあります。
- 採用したけど、すぐに退職してしまった
- 勝手に判断して仕事を進めてしまう
- お客様とコミュニケーションがうまく取れない
- 主張が強すぎて協調性がない
- 内定を出したのにビザが下りない(更新できない)
これらは、いずれも事前に回避や防止するための対策を取ることもできますが、受入コストが発生したり、リスクがあることは確かです。だからこそ、必要性をしっかりと考えて、事業の成長に貢献できる施策なのかを見極めていきたいところです。
地域の人たちが留学生を受け入れる環境
3人目のプレゼンテーションは、大学からの知見です。プレゼンターは立命館アジア太平洋大学(APU)学長室東京分室課長の伊藤健志さん。
APUでは「混ぜる教育」を実施しており、世界約90の国と地域からの留学生(APUでは国際学生)が混ざっている状態。約3,000人の国際学生が日本人学生数を150人ほど上回っています。この環境から、外国人採用のヒントが見えてくるかもしれません。
APUは全ての国際学生を面接しており、そのほとんどは世界の大学教育の共通語である英語で入学し、入学後ゼロから日本語を学びます。毎年約200名の国際学生が日本で就職するため、それまでに日本語で就職活動が出来る程度の日本語力を身につけることになります。別府らしく、地域の温泉に入ったり、アルバイトをしたりすることで、うまく地域に「混ざり合って」生活しているようす。特に、「じいちゃん、ばあちゃん」や「子どもたち」とは、言語以上にうまくコミュニケーションがとれているようです。
日本全体で、世界に通じる人材を育成しよう
国際学生が日本に留学する理由は、「100年企業の多さなど、日本のマネジメントの優位性」「アジアで唯一の先進国だから」「日本で、英語で世界と学ぶことが出来る」などが多いとのこと。また、卒業後日本で就職し、生活している人から見ると、「日本は子育てがしやすい」という声も聞こえてきます。日本では、治安や福祉の面で優位性が高いのです。
日本で学び、働く外国人が、たとえ数年後には日本を離れたとしても日本で育てられたという誇りと絆を持ってくれさえいれば、わが国と世界の貴重な架け橋として活躍してくれるはずです。
その際に、以下のようなポイントを押さえたほうがよいと言います。
- 外国人労働者問題を語る際は、人手不足と高度人材は分けて議論すべき
- 異質なものに対するピアプレッシャー(同質圧力)をかけない
- 日本語は世界で最もハイコンテクストであることを自覚。易しい日本語を心がける
- 異質なもの、面倒なものから学ぶことを楽しむ。直観力をリセットする
- マネージャー自身が積極的に異文化体験をする
APUでは、この環境を活用し、社会人を2ヶ月間学生として受け入れるプログラムを用意しています。学生のグローバル人材育成への取り組みが進む中、受け入れる企業側が彼らを受け入れる体制整備やマインドセットの改革が今後の課題になるでしょう。
外国人採用は、まだまだ難しい実態がありますが、成功している企業や大学もあります。それらを活かして、日本と外国人の双方にメリットのあるような採用をすすめたいものです。
記事の後編は、プレゼンターを中心に、外国人採用に関する具体的な問題を参加者と一緒に議論した内容をお届けします。どうぞ、お楽しみに。