「人生をかけてやりたいことなんて、なかなかみつからない」というモザイクワーク代表取締役の杉浦二郎は言います。法政大学キャリアデザイン学部の「産業・組織心理学Ⅰ」の講義にて、特別講師として大学3年生や就職活動中の4年生向けに講演したときのことです。では、何を足掛かりにして就職活動をすればいいのでしょうか? 杉浦は、企業側の視点をふんだんに織り込みながら、順を追って解説しました。

そもそも、働きたいか?

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まずは、杉浦の経歴から紹介。お菓子メーカーに15年勤め、採用の分野であらゆるチャンレンジをしてきました。その後、フリーランスとして企業の採用分野に携わり、その後、モザイクワークを立ち上げます。事業の一つとして、採用課題に向き合うコンサルティングファームとして活動しています。

学生たちに投げかけたのは、「そもそも、働きたいですか?」という質問。杉浦によると、就職活動が難航している人の中には「そもそも働きたくない」という人と「働きたいのに働けない」という人の2種類がいるのです。

モザイクワークとしてチャレンジしているのは、「働きたいのに働けない」という人がどうすれば活躍できるのかを考え、環境を整えていくこと。一方で「働きたくない」人を「働きたい」気持ちにするのは、学校や教育を含めて一緒にトライしていかなくてはならないと考えています。

ただし、「日本は、スキルや経験がなくても採用してくれる稀有な国」。一方、隣の韓国は超学歴社会で就職率は50%と言われています。「スキルや知識がない人をなぜ採用するの?」という考え。それに比べると、すんなりと受け入れ、お金を払いながら教育をしてくれる日本は、世界でも珍しいのです。

就活のトレンドは、リファーラルやダイレクトリクルーティングへ

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毎年採用業界を見ていると、トレンドや流れがあるとわかります。近頃は、リファーラルやダイレクトリクルーティングが増えており、人づての採用が増えているのです。

「学生の『ナビ離れ』が進んでいます。企業としても、ナビで学生が集まりにくくなっている。ナビゲーションシステムではテンプレートが決まっているため、文字数や写真が制限されるため、差別化しにくいんですね。オウンドメディアを使ったり、リアルに会えるイベントを開催するなど、さまざまな施策を始める企業が多い。どちらがいいとか悪いではなく、トレンドとしてそうなっています。そのため、皆さんにも選択肢が増えているのです」

採用の施策が細分化して、さまざまな場所で情報が得られるようになってきています。

企業側が採用する際に考えていること

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ここで、採用プランの裏側と称して、企業側の施策を解説。採用においては、他の何を差し置いても「どうしても外せない情報」を最初に聞くのがポイントです。いらない情報を先にたくさんもらっても、お互いのためにならないから。効率的に情報をやりとりすることで、お互いがハッピーになります。

ヒントを得たのは「マネーボール」という映画でした。お金がない弱小野球チームが、データや新しい指標、評価軸を使って、強いチームを作っていくストーリー。

「もっとも大事なのは、主人公のいるアスレチックスが野球の再定義をしたことです。野球とは何か? と聞かれたら『9人ずつ二組に分かれて得点を競うスポーツ』と多くの人は思うかもしれません。ところが、アスレチックスは『27個のアウトを取られるまでは終わらない競技』と定義しました。目の前の現象について自分なりの解釈をし、見方を変えてくることで、着目することが変わってくるのです」

そこで、杉浦は採用を再定義しました。

「『採用』は、個と組織の接続である。そして、『採用活動』はその中における情報のやり取りである」

そう定義することで、接続するために必要な情報やその量、タイミングなどを整理。それにより、極めてシンプルにお互いがやり取りできるようになり、応募してくる学生の層が変わりました。ただこれも、唯一の正解ではありません。そのポイントに響いた人材とマッチすればいいのです。

会社選びには自分ならではの「課題」をキーに

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次に、採用する側から採用される側へ立場を変えましょう。就活生が会社選びをするときに必要な視点は何なのでしょうか。

「『合う・合わない病』『やりたいこと病』にさいなまれている学生が多いのですが、自分に合うって何でしょう? やりたいことってないとダメなのでしょうか?」

使命感やビジョン、やりたいことなどは、あればいいものの、就職する際に必ずしも必要なものではありません。本当に人生をかけてやりたいことなら、事業を興しているはず。そうでないから就職をするのでしょう。

杉浦も長らく組織に属してきましたが、40歳を超えてから初めて独立をしました。それは、その年でようやく「人生を背負ってまでやりたい」と思えることに出会ったから。

もちろん、もし「やりたいこと」に出会っていればすごくラッキーですが、そうでなくても「当たり前」というくらいの気持ちでいいのです。

課題を感じたら、会社選びに役立てる

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実は、やりたいことよりも、何に対して課題を持っているかを考えると、企業選びがしやすくなります。会社説明会などで、「この会社は何を課題としてとらえ、解決しようとしているのか」に着目すると、自分もチャレンジしたいと思えるか判断できるのです。

「ここで、15歳の起業家を紹介します。彼女は、働くことが先に来ているわけではありませんでした。ただ単にかわいいコスメが欲しかった。ところが、自分のお小遣いで買えるものがないとわかったのです。その後、韓国には安くてかわいいコスメが売っていると知り、日本で売るために会社を立ち上げて輸入販売をしています。働くことは彼女にとって、問題解決でしかないのです」

働くとは、それほど難しいことではありません。大事なのは、やること。行動することです。失敗してもリカバリーすればいいのです。失敗するほど強くなり、ノウハウが溜まりやりたいことも見つかるようになります。

杉浦はそこまででプレゼンテーションを終了し、残りは質問の時間としました。参加者からの質問は、「就活しているけれど最終選考で落ちてしまう」「採用の情報を絞ることで、同じような人が集まってしまうのではないか」「杉浦さん自身の失敗を教えてほしい」など。自信が悩んでいることや、プレゼンテーションの内容について、杉浦の経歴についてなど、さまざま。講演後のアンケートでは、下記のような感想が寄せられました。

「私はまだ働きたいと思わない側でしたが、就職活動の捉え方が変わったので、お聞きしたことを参考に、前向きに取り組みたい」
「今までを振り返って失敗と言えるほど自分から行動したことがないので、変えなければいけないと感じました」
「自分なりに『解釈』を考えてみるというのは、普段から心がけてみようと思った。その企業がどんな課題に向き合って解決していこうとしているのかも意識したい」

企業側の思惑を押さえながらも、自分でマッチする会社を見つけていく。そのヒントが「課題」に対する考え方です。就活中の方は、身の回りのどんなことに課題を感じるか、自分ならではの視点を見つけてみましょう。