モザイクワークでは、採用に関する様々なトピックに関して考えるイベントを、定期的に開催しています。3月15日は、外国人採用(グローバル採用)をテーマとしたイベントを開催。前編では、プレゼンテーションをレポート。外国人採用の実情や、これからの課題などについて、外国人採用や教育に詳しい専門家たちが問題提起しました。

後編では、パネルディスカッションの様子を紹介。外国人採用をしている企業の価値観や、立命館アジア太平洋大学(APU)での考え方など、ヒントになる話題や事例が満載です。

▼前編の記事はこちら
課題の多い外国人採用。優秀な人を採るためにできることとは?【前編】

トピック
  • 外国人採用に日本語力を問うべき?N1は必要?
  • 日本語と外国語の混ざり合いから生まれるもの
  • 言語よりマインド。文化の壁を超えるには
  • グローバル化を進めるには偶発的か、戦略的か
パネラー

フォースバレー・コンシェルジュ株式会社 取締役 橋本和宏さん
一般社団法人日本国際化推進協会(JAPI) 事務局長 田村一也さん
立命館アジア太平洋大学(APU)学長室東京分室課長 伊藤健志さん
株式会社働きかた研究所 代表取締役 平田未緒さん

ファシリテーター

モザイクワーク株式会社 髙橋実

外国人採用に日本語能力を問うべきか?

モザイクワーク 取締役COO 髙橋 実

髙橋
私はモザイクワークの執行役員(当時。現在は取締役COO)を務めながら、HDEという会社にも所属しています(2018年3月に卒業)。HDEでは、グローバル採用に積極的に取り組んでいます。2014年、社長がグローバル採用をしたいと言ったとき、当時人事部長の僕は反対したんですね。社員が60名ほどの組織なのに、ここに異質な文化を取り入れたら大変なことになる。ただでさえ未成熟な組織が、崩壊してしまうかもと。

ところが実際に、台湾やベトナム、インドネシアを訪れて、「今の日本はヤバイ!」と思った。日本人の感覚ではまだ格下だと思われている東南アジア諸国に、数年後には抜かれてしまうと思い、帰国してすぐにグローバル採用をスタートしました。HDEのグローバル採用の特徴は、現地で直接採用すること。インドネシアにいる学生に採用アプローチをかけていますが、日本語ができる人はほぼいません。

現地で最初にジョブフェアに参加した時には、来場する学生が3万人。エントリー数は300名を超える学生がたった3日間で確保できた。日本で開催する外国人向けのジョブフェアに出ることは、ばかばかしくなったというのが正直なところです。日本語力さえ目をつぶって現地から直接採用をすれば、これだけの採用ができる。とはいえ、日本企業の中に「日本語ができるから優秀」という向きは依然として残っています。外国人人材の日本語力については、皆さんどうお考えですか?

田村さん
日本語力は職種によって必要な場合はもちろんあります。例えば日本人のお客様と直接接する営業や接客業などは必要かなと。ただし、ミドルバック(バックオフィスとフロントオフィスの中間)や、社内での開発なら、橋渡しをする人がいればよいと思います。それなら、日本語が話せなくても組織としてよいアウトプットにつながるのではないでしょうか。

イメージ

橋本さん
私も、ビジネスドメインと職種によると思います。弊社は社内公用語を英語にしているので、日本語が話せない外国人も多いです。その人たちは開発や海外とのやり取りをする業務。日本人を相手にする業務の場合は、N1(日本語能力試験の最上レベル)が必須となります。

髙橋
日本人を相手にしない場合は、N1は不要ですか?

橋本さん
はい、不要です。日本語能力を問わないほうが、圧倒的に採用対象が広がり、面白くて魅力的な人が採用できます。ただし、定着、活用の難易度は高くなるかもしれない。

イメージ

混ざりあいにより、話せるようになる

髙橋
私はAPUを訪問したことがありますが、外国人の学生は、入学当時ほぼ日本語が話せませんよね? ところが、2年、3年で流ちょうに話せるようになる印象です。

平田さん
APUに1泊2日で取材させていただいたことがありますが、外国人学生の日本語力にはもちろん、個人差もあるようです。ただ、共通して感じたのは、伊藤さんのプレゼンテーションにあった「混ざりあい」の力です。学生たちの話を聴いていると、学費や生活費を稼ぐために、別府の街中のスーパーや飲食店、温泉旅館などでアルバイトや、買い物をしている。これらを通じて、地元の人たちと触れ合い、かわいがられているんです。混ざりあいの中で育っていくのだと思いました。

イメージ

髙橋
日本語教育、と改まるのではなくて、生活の中で学んでいくのですね。学生は街に行くことを「下界に降りる」と言っていたのが印象的でした。

平田さん
語学を学びたいというよりは、もっと先の日本人との関わりを欲しているのでしょう。能動的なものを引き出す力がAPUにはあるのではないでしょうか。

伊藤さん
とはいえ、言語は大事です。言語を勉強しないと、文化はなかなか入ってきません。授業は、英語バージョンと日本語バージョンの両方を用意しています。日本人が基礎的なことを勉強するために、英語で勉強する意味はないですから。

また、外国人学生の中でも、英語ネイティブはマイノリティです。だから、「あなたの英語はおかしい」などと言う人はひとりもいませんよ。

イメージ

髙橋
APUに行くときに驚いたのは、実は意外にも日本語だらけだということ。HDEでグローバル採用を開始した時には、日本語が話せない外国人人材のために必死に社内英語化を進めていたのですが、APUでは全て英語になっているわけではない。大分空港からバスを2つ乗り継いでAPUまで行くのですが、2つ目のバスにはAPUの学生しか乗っていないくらい。さぞかし英語が飛び交っているのかと思いきや、バスの車内表示はほとんど日本語だし、バスの運転手も日本語でしか話さない。

伊藤さん
カフェテリアは地元のパートの方々であっても、全く日本語ゼロの新入生も問題なく注文できます。また、小学生が社会見学に来て、「5カ国の人と話をする」というような課題を出されてキャンパスを走り回っています。

結局は人柄。尊重し合い、混ざりあうことが大切

髙橋
会場の参加者の中で、日本語の話せない外国人を採用している方がいれば、お話を聞かせていただけますか? 社内にコンフリクト(対立など)があるかどうか。

会場の男性1
特にコンフリクトは起きていません。それが当たり前になっているので。英語だけでなく中国語も飛び交っていて、僕は中国語を理解できないのですが、そのことに違和感はありません。意思疎通の必要があれば、両方話せる人に間に入ってもらいます。

イメージ

田村さん
企業のインタビューをして感じるのは、言語よりも文化がコンフリクトになり得るということ。ある企業の話ですが、営業をするバングラデシュ人の方がいました。初めは、ビジネス日本語や社会人としての振る舞いが分からず、苦労したそうですが、入社以来ずっと日本人向けに営業をしているそうです。その企業の人事曰く「いいやつだから採用した」とおっしゃっていました。

一方、別の企業では、日本語がうまくても、強く主張することが当たり前となっている方だと、マネジメントする際に必要以上に意見がぶつかるという話を聞きました。語学より、マインド(文化的差異)のほうが問題になるのではないかと感じます。

伊藤さん
APUを作る際、地元の人から反対運動がありました。でも、今となっては地元の人たちがかわいがってくれているんですね。誰も「ガイジン」扱いしない。それは、学生がちゃんと勉強することを目的に来ていて、休憩時にも懸命に勉強する姿を見るからだと思います。全く日本語が話せなくても、アルバイトとして雇ってくれます。別府という土地柄、もともと外部の人たちを受け入れていたという歴史的背景があるのかもしれませんが。

平田さん
外国人を雇用している企業の取材もしていますが、とてもよい戦力になっている場合と、そうでない場合がやはりあります。外国人の方が事件を起こしてしまった事例もありますが、その背景には、孤立感や孤独感があるように思いました。逆に、うまくいっている職場は、日本人と外国人が、人対人の、心の付き合いをしているんです。日本への同質化や同化を迫るのではなく、それぞれを尊重して混ざることが大事なのではないでしょうか。

イメージ

伊藤さん
それは大きな課題で、日本人の新卒でも同じですね。大学では「枠からはみ出せ」といって教えているのに、就活や入社後は「枠に収まりましょう」となる。また、会社では「言わなくてもわかるだろう」と同質性が求められる。外国人だけの問題ではないですね。

偶発的グローバル化

髙橋
私はHDEで戦略を立てて実行したというより、寧ろとりあえずやってみようというグローバル採用をスタートしました。きっかけは、エンジニアの採用ができず、事業の継続が難しいという切羽詰まった状況から。ひとまず入社したはいいけれど、反発する人が多く、誰も話さないという環境。ところが、英語を話せない日本人の社員がスポーツを通してコミュニケーションを取り、その後ふたりでラーメンを食べに行った。戦略的ではなく、偶発的にグローバル化がなされたのだと思っています。

橋本さん
私の知っている事例だと、偶発的なグローバル化はあまりない。クライアントは大企業が多いので、戦略的に始めています。ただし、偶発的グローバル化という言葉は納得感がありますね。やってみればなんとかなるというような。

イメージ

髙橋
会場内の方で、戦略的か、偶発的かを話してくださる方はいますか?

会場の男性2
バイリンガルは市場価値が高いので、採用するのにお金がかかります。日本語が話せなくてもかまわない職種なので、採用にコストを掛けず優秀な人を採りたかった。そういう意味では、戦略的にグローバル採用をしたと言えます。

会場の男性3
事業が「食」の分野なので分かりやすいためか、国籍は関係なく共感してくれた人が集まっています。結果として外国人だった、という印象で、大事なのはその人が優秀かどうか。比較的偶発的だったと言えるかもしれません。

今後、2060年には日本の労働人口が4割減少する可能性があると言われています。世界で誰も経験したことのない現象です。労働力が枯渇する中で、企業がいかにこれから存続するための労働力を確保していくかは、重要な課題でしょう。

「グローバル人材採用」というテーマで今回は議論しましたが、本質的には外国人を採用するのかしないのかという議論ではなく、自社の事業存続のための労働力確保にどのような手を打つべきなのか。実は、本当に考えるべきはこのような視点です。

自社にとって何が必要なのか、本質的な議論をしたうえで、グローバル採用をするべきなら早く取り組み慣れていた方がいいでしょうし、せずに別の手段をとるという選択もあります。大事なのは、今から自社の将来に向けて戦略を立てていき、実行していくということなのではないでしょうか。

モザイクワークでは、是非このテーマを深堀りして考える意味でも、APU様に協力いただき、実際に現場を見て議論する「APUツアー」も企画し、参加者の方々でさらに深く議論ができる場を作る予定です。是非楽しみにしていてください。